| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


企画集会 T01-3 (Lecture in Symposium/Workshop)

プランクトンから見たリズム

吉田丈人(東大院・総合文化)

リズムとは周期的な反復であり、プランクトンはさまざまなリズムに囲まれて生きている。時間スケールの短いリズムには、概日リズムがある。プランクトンにとって昼と夜の環境は大きく異なり、それに対する生理応答(走光性)の結果、日周鉛直移動が見られる。1mmほどの生物が数mもの水深を毎日潜り浮上する行動である。昼は、捕食や有害なUVを避けるために深い層に移動し、夜は、餌が豊富で高水温の浅い層に移動する。日周鉛直移動は、光の変化や捕食者カイロモンにより引き起こされるが、生物時計にも影響を受けることが知られている。

時間スケールのより長いリズムとして、概年リズムがある。水域の生態系は、一般に、季節的に変化する環境に大きく規定される。温度や光の季節変化に直接・間接に応答して、プランクトンは明瞭な「季節遷移」を毎年見せる。春には、植物プランクトンが大増殖してブルームを形成し、それを食べて動物プランクトンが増える。やがて植物プランクトンは食われたり沈降したりして減少する。夏には、窒素同化をする藍藻が増えてアオコの発生をもたらしたりする・・・など。この概年リズムに対して、プランクトンは、生活環を調節するなどの適応を見せる。

環境要因の外的な変化により引き起こされるこれらのリズムに対して、生物の内的な作用から発生するリズムもある。例えば、捕食—被食の生物間相互作用によってつくられる個体数振動は、明確なリズムをもつ。このリズムに対しても、プランクトンは、さまざまな生理的適応を見せる。

このように、プランクトンから見たリズムの代表に上の3つがあるだろう。異なる周期のリズムに応じて、プランクトンは、行動・形態・生活史など個体内部の「生理」を変化させて適応する。複数のリズムにどう適応するのか、至近要因の進化、予測可能なリズムと確率的な変動など、生理と生態のはざまで興味深い問題が見えてくる。


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