| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


企画集会 T03-1 (Lecture in Symposium/Workshop)

海洋島における外来生物駆除のインパクト:なぜ物質循環なのか

可知直毅(首都大学東京)

2007年、南硫黄島の自然環境調査が25年ぶりに実施された。南硫黄島は、小笠原諸島で唯一有史以来人間の永住記録がない島である。この調査により、クマネズミなどの侵略的外来生物が生息していないことが確認され、人為がおよぶ前の生態系が残されていることがわかった。特に、海洋島ほんらいの生物間相互作用や生物進化の場である生態系が維持される原動力として、複数種の海鳥の役割が大きいことを実感した。

海洋島の在来の生物群集は、侵略的外来生物によって大きな影響を受ける。また、生物群集の構成や生物間相互作用は、生態系における物質収支や循環と互いに強く関連している。そのため、定着した外来生物は、その生態系内で新たな生物間相互作用を形成するとともに、その生物間相互作用を介して生態系の物質の収支や循環にも影響をおよぼす。例えば、ネズミなど外来哺乳類による海鳥の捕食は、単に海鳥の個体数を減少させるだけでなく、海鳥の排泄物や遺骸を介した栄養元素の生態系外からの持ち込み量も減少させる。さらに、侵略的外来生物が、生態系の中でその生態的地位を確立している場合、これらの外来生物を駆除することは新たな生態系攪乱となる。

この企画集会では、外来生物の駆除を大規模な野外実験ととらえ、野生化したヤギとクマネズミにより大きな攪乱を受けた小笠原諸島の無人島を主な対象として、ヤギが駆除された後、植生回復や海鳥の営巣行動等を介して生態系の物質収支や循環がどのように変化するかについて、現地調査の結果を報告する。さらに、それらの変化が生物群集の構成にどう影響しうるかについて、数理モデルにより解析した結果を紹介する。

※これらの研究は、科学研究費基盤 (A)「海洋島における外来生物の駆除が生態系の物質循環に与えるインパクト」(代表者:可知直毅、2010~2012)の資金援助を受けて実施した。


日本生態学会