| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


企画集会 T03-2 (Lecture in Symposium/Workshop)

栄養塩環境から見た小笠原の陸域生態系の特徴

*平舘俊太郎, 森田沙綾香(農業環境技術研究所)

陸域生態系においてどの生物種が構成メンバーとなりうるかは、生物の分布要因以外にも、その生態系で利用可能な資源の量や質にも大きく依存する。ここで資源とは、光、水、空気、栄養塩などが挙げられるが、海洋島である小笠原諸島ではとくに栄養塩が陸域生態系を規定する資源要因となっている可能性が考えられる。これは、小笠原諸島では独特の地質のために栄養塩の存在量にもともと偏りがある、他の陸域生態系とは海を挟んで長距離はなれているために物質のやりとりが極めて限られている、個々の島の面積が小さい、極めて長期間(〜数千万年)の風化によって不溶化あるいは溶脱された栄養塩は利用可能量が極端に少なくなっている、といったことに起因する。

陸域生態系を制限する栄養塩としては、植物の多量栄養素である窒素(N)とリン(P)が取りあげられることが多い。実際に小笠原の土壌を調査したところ、Pの利用可能量が極めて限られている場所が確認される一方で、逆にPが異常に富化されている場所も部分的に見つかった。この富化されたPは海鳥の糞に由来するものと考えられた。すわなち、小笠原の陸域生態系は海洋生態系と海鳥を介して密接につながっていると捉えることができ、これは海鳥の天敵である肉食哺乳類が分布していなかった小笠原諸島の際立った特徴と考えられる。小笠原諸島に生育する植物の無機栄養元素含量を調査したところ、Pが富化された場所では、シマホルトノキ、アカギ、シマグワなど植物体中の栄養塩濃度が高い植物種が分布していることが、逆にこれらの種は貧栄養的な土壌環境にはほとんど分布していないことが明らかになった。このように、小笠原諸島では生物活動と栄養塩循環が互いに密に関連している様子が解明されつつあり、外来生物の動態も、栄養塩循環との関係で解明されることが期待される。


日本生態学会