| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


企画集会 T08-2 (Lecture in Symposium/Workshop)

光合成と環境応答:光合成をおこなうことの利点と危険性

中村 崇(琉大・理)

熱帯・亜熱帯域は,強い日差しを受けながら生育する植物の楽園ともいえる一方,日中の強い紫外線や植物体の光合成能を超えるような過剰光によって引き起こされる酸化ストレスへの効果的対応が重要となる環境でもある.さらに,海中(サンゴ礁域)に目を移すと,比較的栄養塩が少なく透明度の高い環境で進化を遂げてきた動物-植物体間の共生関係が比較的多くみられる.その中でも, 主に海底に固着して生活する造礁サンゴ類やシャコ貝・ホヤなどの共生宿主に注目が集まっており,近年の気候変動や沿岸域での開発の影響を受けた,共生関係の破綻として現れるサンゴの白化(サンゴ体内の共生藻密度低下や共生藻あたりの光合成色素量減少をともなう)現象などについて,生理学的研究が盛んにおこなわれている.サンゴ礁域にはその他,非固着性や移動能力の高い宿主・植物体間での共生関係が存在する. 例えば,体長数センチほどの海産無腸類の一種であるConvolutiriloba longifissuraは, 単細胞藻類(Tetraselmis spp.)を体内に保持している.この種は日中,サンゴ群体や底質の表面などに静止して,体内の共生藻の光合成を促すと考えられる“サンニング(藻が存在する軟体部を葉状に広げて光を受ける)”行動をとることで知られている.その一方,夏季の晴天時などには強光を避けるように日陰へ移動する事例が観察され,環境に応じて積極的に移動する共生体として注目を集めつつある.本講演では, 光による酸化ストレスを受けやすい環境下での植物体との共生関係が宿主の死亡リスクを増大させてしまう可能性について述べるとともに,いかにしてそのリスクを低減しているのかを中心に議論を進めたい.


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