| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(口頭発表) B1-08 (Oral presentation)

北海道東部に生息するタンチョウの集団遺伝構造解析

*杉本太郎(京大・霊長研),長谷川理(エコ・ネットワーク),東典子(北大・水産科学研究院),泉洋江(北大・理学研究院),正富宏之(タンチョウ保護調査連合),松本文雄(釧路市動物園),阿部周一(岩手大・三陸復興推進機構)

日本に生息するタンチョウは、19世紀後半の狩猟や生息地の減少により、一旦絶滅したと思われていたが、1926年、釧路湿原に僅かな個体が残っていることが発見された。その後、冬季の給餌や生息地の改善により、個体数は増加し、最新の冬季調査では約1500羽と推定されている。個体数は回復したものの、タンチョウの遺伝的多様性は低いことが、ミトコンドリアDNA及び核DNAの解析から報告されている。より長期的な観点からタンチョウを保護するためには、遺伝的多様性に加えて、集団の遺伝構造とその形成要因を把握することは不可欠である。そこで、本研究では、マイクロサテライト12遺伝子座を用いて、北海道東部に生息するタンチョウの集団遺伝構造解析を行った。

北海道のタンチョウを5つの地域集団に分けて解析を行った。その結果、5つの集団間で、遺伝的多様性に有意な差はみられなかった。一方、地域間のペアワイズFstは全体的に低かったものの、最も離れた集団間では有意な差がみられた。遺伝的距離と地理的距離には正の相関があり、また個体間の血縁度も距離とともに減少していた。このことから、北海道のタンチョウは、Isolation by distance(距離による隔離)という特徴を持った集団だとみられる。高い飛翔能力にもかかわらず、狭い空間でIsolation by distanceが検出された要因として、出生地回帰が考えられる。タンチョウはオスが出生地へ戻る傾向が強いことが足輪に基づく記録より知られており、オスの出生地回帰が、タンチョウの遺伝構造を形作る大きな要因ではないかと推察した。


日本生態学会