| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(口頭発表) B2-05 (Oral presentation)

スギ人工林における渓流-渓畔林生態系の食物網構造と放射性セシウム動態の関係

*岩本愛夢, 岡田健吾, 境 優(農工大院・農), 根岸淳二郎(北大院・地球環境), 布川雅典(北大院・農), 五味高志(農工大院・農)

福島第一原発事故により放出された放射性セシウム(137Cs)は森林域に広く降下し、その後リターとともに森林内を流れる渓流生態系に流入し、食物網を介して動物へ移行していくと予想される。本研究では、安定同位体比分析を用いて渓流-渓畔林生態系の食物網構造を解明し、構成生物種の137Cs濃度を分析することで、栄養段階や生息場所に関連した137Cs動態について考察した。調査は福島県二本松市東和地区大沢川流域(137Cs沈着量 100-300 kBq/m2:文科省第3次航空機モニタリング)のスギ・ヒノキ人工林を対象とした。50mの流路区間および両岸から斜面方向20mの河畔域斜面について、季節ごと年4回の生物サンプル採取を行った。放射性核種はGe半導体検出器を用いて分析した。

大沢川流域ではスギリターを基盤とした食物網が成り立っていた。スギリターの137Cs濃度(以下濃度はmean±SD Bq/kg-dryで表記)は渓流内で6439±1410 、林床で25797±5592だった。生息場所ごとに分類し、生物の137Cs濃度を比較した結果、渓畔域に生息する生物は3509±2181 と最も高く、次いで渓流(淵)1547±1228 、渓流(瀬)514±271 の順であった。渓流内生物の摂食機能群ごとに見ると、収集食者が2331±1609 と最も高く、捕食者は659±345 と最も低かった。栄養段階の指標となるδ15Nと汚染度指標の137Cs濃度の間に明確な関係は見られなかった。このことから、渓流-渓畔林生態系における生物の137Csの汚染度は、食物網の基盤であるスギリターの汚染度の違いによる影響を受けていると同時に、放射性Csの生物間の濃縮は起こっていない可能性が示唆された。


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