| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(口頭発表) C1-02 (Oral presentation)

積雪下地表面温度が亜高山帯性針葉樹の実生の生残に及ぼす影響 ―富士山、早池峰、八幡平の比較―

*杉田久志(森林総研),高橋利彦(木工舎「ゆい」),長池卓男(山梨森林総研),市原 優(森林総研・関西)

本州の亜高山帯では地域的な積雪環境傾度が明瞭にみられ、多雪環境下ほど針葉樹の実生・稚樹バンクの成立が制限されている。昨年の発表で、根雪期間が長いほど冬期の当年生実生の死亡率が高く、実生が最初に経験する積雪季を乗り切れるかが実生バンク成立のボトルネックであることを示した(杉田ら,2013)。このように積雪環境によって実生消失過程が異なるメカニズムとして、「冬季積雪下の温度条件のちがいにより雪腐れ病の蔓延の程度が異なる」という仮説(杉田,2002)が考えられる。その検証の第一歩として、積雪環境の異なる山において冬季の地表面温度を観測し、実生バンク成立に及ぼす影響について菌害回避と関係づけながら論議する。

調査地は富士山(平均最深積雪深41cm)、早池峰(166cm)、八幡平(317cm)の亜高山帯針葉樹林である。各林分において地表面に小型データロガーを3~4か所設置し、2003~2013年の11冬季に温度測定を1時間おきに実施した。

富士山では、根雪後も地表面温度が氷点下を示して凍結した状態が続き、2月末頃から4月の消雪まで0℃で一定となった。一方早池峰、八幡平では、凍結した期間はきわめて短く、11月の根雪直後から0℃で一定となり、早池峰では5月、八幡平では6月の消雪までその状態が続いた。雪腐れ病菌のひとつであるRhacodium therryanumは、0℃で凍結していない状況では高い病原性を示すが、凍結状況(-5℃)では示さないことが報告されている(程,1989)。本州の亜高山帯性針葉樹に対する加害菌が同様の生理特性をもっているとすれば、多雪環境下の地表面温度条件(凍結しないこと)が実生ステージにおける菌害蔓延をもたらし、針葉樹の定着を阻害している可能性がある。


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