| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(口頭発表) D1-07 (Oral presentation)

ペンギンが空気を吸い込んで潜水する理由

佐藤克文(東大大海研)

多くの海生哺乳類は空気を吐き出してから潜水することで、潜水中のガス交換を抑制して減圧症を回避し、さらに体密度を中性浮力に近づけていると考えられている。一方、潜水性鳥類のペンギンは、空気を吸い込んでから潜水し、空気中の酸素を潜水中に消費していることが知られている。ここで2つの疑問が生じる。1つめは、ペンギンはいかに減圧症を回避しているのかという疑問で、もう1つは空気によってもたらされる浮力にいかに対応しているのかという疑問である。最初の疑問はまだ未解決だが、2つめに関しては、ペンギンが潜る深度に応じて吸い込む空気量を調節していることが知られている。浅く潜る時は空気量を減らし、深く潜る場合は呼吸器官最大容量と同程度の空気を吸い込んでいた。いずれの場合においても、潜水開始直後は浮力に逆らって泳ぐことに過剰な労力を割かねばならないが、潜水底部付近では空気は圧縮されるためほぼ中性浮力となる。そして、浮上に伴い膨張する空気によってもたらされる浮力を用いて、羽ばたかずに受動的に浮上できることが判明した。力学的なコスト計算によって、浮上時に力学的な労力は軽減されるが、潜降時の過剰な負荷を相殺するには至らず、空気を持たずに中性浮力に近い状態で潜水する方が、少ない移動コストで水面と餌のある深度を往復できることがわかった。では、なぜペンギンは海生哺乳類の様に空気を吐き出してから潜水を開始しないのだろうか?ペンギンの最大種はエンペラーペンギンで、体重は30kg前後である。一方、ほとんどの海生哺乳類はこれよりも大きい。単位体重あたりの酸素消費速度は大型個体ほど小さくなるため、海生哺乳類は血液と筋肉中に蓄えた酸素だけで潜水を完結できる.一方、体サイズの小さなペンギンが、哺乳類と同程度の深度まで潜って餌を捕るためには、血液と筋肉中の酸素だけでは足りないため、空気を吸い込んで潜水しているものと思われる。


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