| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(口頭発表) F2-03 (Oral presentation)

コケ植物食のシギアブにおける植食性の起源と多様化

*今田弓女(京大院・人間・環境),加藤真(京大院・人間・環境)

昆虫における植食性の獲得は、その繁栄に大きく寄与した適応の一つである。植食性昆虫と被子植物の共進化的相互作用に関する研究は豊富ながら、現生の昆虫を用いて植食性昆虫の起源を明らかにした例はほとんど知られていない。近年、双翅目短角類の基部をなす一科であるシギアブ科において、蘚苔類を食べる多くの種の存在が発見された。シギアブ科は幼虫期の食性が属ごとに多様であるため、植食性の起源を探る上で適している。

本研究は、シギアブ科において、コケ食がいつ、どういった食性から起源したのか、また、コケ食のシギアブの多様化において食草の利用様式がどのように影響したかを分子系統学的手法によって明らかにすることを目指した。

私は、形態分類に基づき、コケ食のシギアブは近縁な3属に属する、大部分が未記載種の種群であることを明らかにした。とりわけ種数が豊富な苔類食者は、特定の種の苔類のみを食べる専食者であった。

分子系統解析の結果、苔類食者は食草利用の進化において強い系統的保守性を示した。同じ食草種を利用する苔類食シギアブが互いに異所的かつ局所的に分布することから、苔類食のシギアブの種分化において、異所的種分化が大きく寄与した可能性が示唆された。

シギアブ科全体の分子系統樹において分岐年代推定を行ったところ、シギアブは白亜紀中頃に腐植食性から一回、植食性を獲得したことが示唆された。シギアブ科において植食性が起源した年代は、寄主植物の多様化が起こった年代とよく対応していた。これらの結果及び近年の知見を元に、コケ食昆虫に共通する多様化パターンを生み出す要因や、コケ植物と植食性昆虫の相互作用について議論する。


日本生態学会