| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(口頭発表) H1-09 (Oral presentation)

大震災後、松川浦の底質環境と底生動物群集はどのように変化しているのか

鈴木孝男(東北大院・生命科学)

松川浦(福島県相馬市)は、仙台湾沿岸域に立地する干潟の中では最も広大で種多様性も高いところであり、震災前までに、190種ほどの底生動物の生息が記録されていた。東日本大震災に伴う大津波(波高:8.9m)は、外洋と松川浦を隔てていた海岸堤防(大洲海岸)を数カ所で破壊し、干潟を大きく撹乱した。しかし、松川浦内での干潟の撹乱程度は場所によって異なっていたことから、干潟の全域をカバーするように11地点を設け、底質と底生動物群集のモニタリングを継続している。これまでの結果から、底質と底生動物群集の震災後における変化の様子を紹介する。

各調査地点のうち、宇多川の河口にあって淡水の影響が大きな地点を除けば、塩分の大きな勾配や変化は見られず、海水交換は比較的良いようであった。一方、底質には大きな変化が見られ、全体的に見ると泥分が持ち去られ、外洋から砂が持ち込まれたことで、砂質的になった。一方、奥部には再び泥が堆積し始めたところも見られる。

震災から6ヵ月後の調査によると、種数、個体数密度とも震災前の半分程度になっていた。特に巻貝類や二枚貝類は震災直後にはほとんどが確認できなかった。一方、多毛類には震災直後に大増殖した種類があるなど、早い回復を見せている。巻貝、二枚貝、甲殻類は、一部を除いていまだ回復にはほど遠い状況といえる。しかし、多毛類でも優占種は年ごとに大きく変化しており、こうした変動が今後も続くものなのか、ある期間の後に収束するものなのかを、変動要因を特定することも含めて、継続した調査で明らかにしていくことが今後の課題である。


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