| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA1-029 (Poster presentation)

西南日本の森林群落における越境汚染物質と樹木の成長

*齊藤哲(森林総研),永淵修(滋賀県大),新山馨,金谷整一(森林総研)

本研究では、現時点における照葉樹など西南日本の主要樹木への大気汚染物質の影響について報告することを目的とする。宮崎県綾町の照葉樹林で1989年よりを継続しているモニタリングデータを用い、近年の樹木の生残・成長と大気汚染物質濃度との関係を他要因も交えながら解析した。主要樹種の枯死率および相対成長率を目的変数、Ox濃度や気象条件、生物被害を説明変数としてGLM解析を行った。枯死率はほとんどの種で最大瞬間風速がプラスの効果で、最も影響の大きい変数として採択された。樹木の生残には台風撹乱の影響が最も大きいと考えられた。Ox濃度もいくつかの種で有効な変数として採択されたが、マイナスの効果を示した。相対成長率はOx濃度が最も影響の大きい変数として採択された種が多くみられたが、その効果はプラスのものが多かった。Ox濃度は1993年の台風撹乱後の経過年数と共に上昇していた。高いOx 濃度が樹木の枯死率の低下や相対成長率増加の要因になっているとは考えにくく、解析上Ox濃度が有効な変数として採択されたのは撹乱の影響が大きいと考えられた。

また、綾と屋久島の樹木数種から採取した成長錐コアを用い、近年蓄積されている水銀濃度と成長量との関係も解析した。蓄積された水銀濃度とその期間の成長をみると、スギ、モミ、ウラジロガシではほとんど相関はみられなかった。複数の個体をまとめて表示するとツガ、ハリギリ、ヒメシャラに弱い負の相関がみられた。しかし、個体ごとにみると明瞭な関係はなかった。

以上のことから、現時点でOxや水銀などの汚染物質が西南日本の照葉樹林主要樹種へ枯死木増加や成長減衰等の形で顕著に発現していることは確認出来なかった。


日本生態学会