| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA1-037 (Poster presentation)

アカマツ散布種子の景観スケールにおける2年間の遺伝的多様性

*岩泉正和(森林総研林育セ関西),大谷雅人,那須仁弥,宮本尚子,中田了五,生方正俊(森林総研林育セ)

主要な優占樹種ではしばしば,景観内で数多くの集団が地形的要因等によって断続的に分布し,「景観>集団>個体」という階層的な遺伝的構造により地域特有の遺伝変異が保たれていると考えられる。これまで,景観スケールにおける遺伝的多様性は,間接的手法(TwoGener)等を用いて,主に種子の雄性配偶子の遺伝情報から花粉による遺伝的交流の評価が行われてきたが,もう半分の遺伝的変異を担う雌性配偶子による遺伝的多様性への寄与も正確に把握する必要がある。本研究では,福島県いわき市のアカマツ天然林において,これまで詳細な遺伝子流動の解析を行ってきた(Iwaizumi et al. 2007; 2010; 2013)1つの尾根上の集団(調査範囲:3.75ha)に,周辺の尾根上の8集団を加え計9集団を調査対象として(約225ha),各3台,計27台の種子トラップにより2ヵ年で収集した散布種子の遺伝的変異を解析した。

針葉樹種子の雌性配偶体(母親由来の半数体組織)を利用した遺伝解析手法により雌雄の配偶子を正確に区別して解析し,集団間,年次間および雌雄の配偶子間という3要因にわたる遺伝的変異を評価した。

雌性配偶子の年次毎の集団間および集団毎の年次間での遺伝的分化度(平均FST=0.030,0.007)は,おおむね雄性配偶子(同0.005,0.002)よりも高い値を示した。3要因の間では,遺伝的分化度は集団間(平均FST=0.017),雌雄配偶子間(同0.011),年次間(同0.004)の順に大きかった。当該樹種の景観スケールにおける次世代の遺伝的多様性のポテンシャルは,花粉による活発な遺伝的交流がもたらす均一な組成の雄性配偶子と,集団間で少なからず異質な雌性配偶子の遺伝的変異が組み合わさることにより保持されていることが考えられた。


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