| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA1-098 (Poster presentation)

多雪地域における蘚類ウマスギゴケの生活史と生育環境の関連性

白崎 仁, 新潟薬大・薬・生物

多雪地域の新潟県とその隣接地域で、蘚類ウマスギゴケPolytrichum communeは、海岸沿いの低地から2,000mを超える高地まで広く分布する。本種は低地では直射日光の良く当たる草地や庭園、高地ではミズゴケ湿原などに生育する。環境の大きな違いに対する適応を解明するため、配偶体の成長、胞子体の成熟時期と温度・湿度・日射量を調査した。海抜40m(新潟市新潟薬大)、600m(湯沢町三俣)、1,380m(苗場山)の三地点を設定した。AMeDASのメッシュ気候値による、最深積雪深と暖かさの指数WIについては、新潟薬大は64cm・WI:101、三俣は257cm・WI:69、苗場山は326cm・WI:53である。成長と気象の関連性を探るため、積雪期を除いて毎月1回、光合成蛍光測定装置(PAM2100)を用いて光合成機能を測定した。3地点の積雪期間は大きな差異があり、多雪地ほど生育期間は短縮される。平均気温は7〜8月に最高となる。内陸では夏季の湿度は90%以上だが、低地の新潟薬大の湿度は78〜81%で、高温と強い乾燥状態にある。しかし、胞子体の発達と成熟時期には極端なズレはなく、減数分裂は7月、胞子の散布は7月下旬から8月上旬である。新潟薬大では8月上旬に胞子散布するが、高地の苗場山では胞子散布は9月まで続く。胞子散布後、雌株は秋に枯れる。受精時期は正確にはわからない。低地では降水量のある7月の梅雨末期、高地では8月と推定される。降雪の遅い低地では冠雪まで胞子体の発達が続く。冠雪の早い場所では雪解け後に急速に発達する。光合成機能は、気候の変動と無関係である。凍結しなければ光合成をする。蛍光値は植物体に蓄積された機能の高さを示すのでなく、測定時の気温と日射だけが反映されていると考える。耐寒性があり、雪解け直後から直射日光下で急速に成長して胞子体を成熟させて広く分布するのだろう。


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