| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA1-119 (Poster presentation)

寄主植物の花の匂いに対するハナホソガの電気生理応答

*岡本 朋子,高梨琢磨(森林総研)

ホソガ科のハナホソガ属蛾類は、それぞれの種が特定の1種の植物(コミカンソウ科)を訪れ、雄花で花粉を集めた後に雌花で授粉を行う。その際ハナホソガは授粉した花に産卵し、花の中で孵化した幼虫は種子だけを食べて成長する。また、寄主であるコミカンソウは、花粉の運搬を特定のハナホソガだけに頼っている。このように、ハナホソガとコミカンソウは互いに繁殖を強く依存し合う相利共生関係である。

これまでの研究から、夜行性のハナホソガは、花から発せられる揮発性物質(花の匂い)を用いて、他種と寄主を識別し訪れることが知られている。さらに、雄花で花粉を集めた経験のないハナホソガは、まず雄花の匂いを選好することが明らかになっている。これは、ハナホソガが雄花と雌花の匂いを明確に区別し、それぞれの匂いに対して異なる行動 (雄花で集粉・雌花で授粉)を示すことを示唆している。しかしながら、ハナホソガとコミカンソウの種特異的な関係を支える上で重要なキューであるハナホソガの誘引物質や、雄花と雌花での異なる行動を誘発する物質の特定には未だ至っていない。

そこで、本研究では、ハナホソガが利用できる揮発性物質のスクリーニングを行うために、ハナホソガの嗅覚受容器である触角に、花の匂いの各揮発性物質を与え、それに対する電気生理(電位)応答を調べる触角電位図(Electroantennography)実験を行った。

その結果、1) ハナホソガは寄主植物の花の匂いの中でも、一部の揮発性物質にのみ強い電位応答を示すこと 2) 同所的に生育する他種のコミカンソウが放出する物質に対しては電位応答を示さないこと3)花粉の運搬を行う雌のハナホソガと、送粉に関与しない雄の間では、受容できる揮発性物質に差が見られることなどが明らかになった。本発表ではこれらの結果を詳細に紹介し、ハナホソガとコミカンソウの送粉共生関係に関わる花の匂いの役割について議論を行う。


日本生態学会