| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA1-122 (Poster presentation)

イラクサ(<i>Urtica thunbergiana</i>) の表現型可塑性:被食に対する適応的応答

*加藤禎孝(岩手連大農),石田清(弘前大農学生命科),菊地淳一(奈教大教育),鳥居春己(奈教大自然環境教育セ)

奈良公園におけるニホンジカの採食に対する多年生草本のイラクサの応答を調べるため、人為的に茎頂切除を行い、葉の大きさ、刺毛数、刺毛の長さ、果実生産量などの変化を調べた。フェンスで囲まれシカの採食圧が低い竹林内に調査区を設定し、2013年5月に茎頂切除を行った。切除前の5月の主軸と切除後に伸長した8月の側枝に着く同じ葉位の葉の葉面積及び表面・裏面それぞれの刺毛数・刺毛長を測定し、非切除個体と比較することによって刺毛形質の表現型可塑性を評価した。さらに、果実生産量、草丈とその相対成長率、及び伸長量についても切除に対する応答を調べた。調査の結果、(1)非切除個体については、夏の葉の方が春よりも葉面積が大きく、葉の表面の刺毛も有意に多くて長かった。葉の裏面については、夏の方が有意に刺毛が多く、刺毛密度も高かった。(2)切除個体と非切除個体の違いについてみると、葉面積と刺毛密度には有意な差が認められなかったが、刺毛数は切除個体の方が非切除個体よりも有意に多く、刺毛長も切除個体の方が有意に長かった。果実生産量は切除個体の方が有意に多かった。草丈とその相対成長率及び伸長量については有意な差は認められなかった。

以上の結果から、イラクサは、(1)葉面積・刺毛数・刺毛長が季節変化を示すこと(春<夏)、また、(2)切除(すなわち被食)されると刺毛が増えてなおかつ長くなり、果実生産も多くなるといえる。イラクサは、採食圧が低下すると刺毛を減らし、刺毛長を短くする(加藤ほか2012)。以上の結果は、本種の刺毛形質が条件に応じて可逆的に変化することを示している。このような表現型可塑性は、シカの採食圧が時空間的に変動する場所でイラクサの適応度を高めることに貢献していると考えられる。


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