| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA1-124 (Poster presentation)

植食者と天敵の適応的な餌探索行動から植物の香りシグナルの多機能性を説明する

*米谷衣代(京大・生態研セ),三木健(台大・海洋研)

植物の香りは食害の有無やその程度によって異なる揮発性化合物のブレンドで構成される.その香りは植食者やその天敵である捕食者・寄生者など食物連鎖を構成する複数種に受容され,香りを受容した個体は植物への誘引反応や忌避反応を示す.このような多機能性が植物の香りシグナルの特徴である.このような多機能性は,香りシグナル受容者の適応的な戦略が進化的に多様であることとして理解できるだろう.そこで本研究では,植物-植食者-天敵からなる食物連鎖モデルを構築し,シグナル受容者の多様な戦略を決める植物の形質の特定を目指した.モデルで考慮した点は,植食者の香り選択戦略の有利さが,餌資源としての植物の見つけやすさ・栄養的価値と天敵に狙われるリスクとのバランスで決まるため,天敵の香り選択戦略に依存することである.同様に天敵の香り選択戦略も植食者の選択戦略に依存する.モデルの解析の結果このようなゲーム的状況のもとでは,植食者は香りが強く見つけやすい一方誘導抵抗性や天敵リスクの高い植物個体を選択するかどうか,天敵は香りが強く見つけやすい一方植食者の質が悪い植物個体を選択するかどうか,について異なる多様な戦略の組み合わせが共進化の結果生じることが分かった.また,共進化的に安定な戦略の組み合わせを決める主要な形質は,植物の誘導抵抗性レベル・食害量-香り放出量関係・植物の寿命・植食者の集合行動レベルであることが分かった.さらに,植物の形質が同じでも香り受容者の初期戦略の違いにより植物の香りに対する異なる応答が進化的に安定になるうることも明らかになった.このことは,同じ種の組み合わせからなる食物連鎖においても場所によって植物の香りが異なる作用を持ちうることを示している.


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