| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA2-041 (Poster presentation)

昆虫の利用による死体の化学的性質の変化が死体上の生物群集形成を促進する

*伊藤美信,西垣敦子,長谷川雅美(東邦大・理)

ラットの死体に誘引されるオオヒラタシデムシEusilpha japonica(以下:オオヒラタ)とクロシデムシNicrophorus concolorでは、オオヒラタの多く集まった死体程クロシデムシの誘引確率が上昇する(伊藤 未発表)。クロシデムシ近縁種は、死体から発生する微生物由来の化合物(DMDS:C2H6S2、DMTS:C2H6S3)を利用して死体を探索する為、オオヒラタの利用が死体からのこれらの化学物質の発生を増やしたと仮定し、2013年にその実証と腐食性昆虫群集への影響を調べる実験を行った。

通常のラット、オオヒラタが採餌するラット、腹部に損傷を与えたラット(オオヒラタによる死体への物理的損傷を再現)、オオヒラタとラットを同居させた条件(オオヒラタの採餌は阻害)、オオヒラタのみの条件から、6, 18, 36時間後に気体を採集し、GC-MSを用いてDMDSとDMTSの発生量を定量した。分散分析の結果、採集条件と経過時間の交互作用に有意差が見られ(F 8,27=8.87, p<0.001)、オヒラタに採餌されたラットでは、他の条件よりDMDS及びDMTSの発生量が大きくなる傾向がみられた。

DMDSとDMTSの混合液、ヘキサン、空の1.5 mlチューブをベイトとしたトラップを野外に設置し、トラップへの昆虫の誘引状況を記録した。トラップへの昆虫の誘引個体数、誘引種数を応答変数、ベイトの種類を説明変数とした一般化線形混合モデル(誤差構造:ポワソン、リンク関数:log)による解析の結果、DMDSとDMTSの混合液をベイトとしたトラップで誘引個体数、誘引種数が多かった。

以上のことから、オオヒラタの死体の採餌は、死体上の微生物群集に促進的な影響を与えることで、死体からのDMDSやDMTSの発生を促し、死体上の昆虫群集の形成を促進する事が示唆された。


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