| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA2-057 (Poster presentation)

渡りを行なうウスバキトンボの産卵特性

*市川雄太(筑波大・生物),渡辺 守(筑波大・生物)

熱帯に広く分布するウスバキトンボは、我が国において、春に渡ってきた成虫が世代を繰り返しながら北上し、秋には稚内まで達するという。しかし、寒さに弱いため、秋が深まるにつれて全滅し冬は越せない。一方、夏から秋にかけては各地で群飛が観察され、様々な水域で産卵している。本種の産卵特性を明らかにするため、7月~10月に日本各地で雌成虫を捕獲した。体色や翅の汚損状態などにより、これらの個体の成熟段階を、前繁殖期を4段階、繁殖期を3段階の計7段階に分類した。捕獲後直ちに雌の腹部末端を水に浸したところ、繁殖期と判定された雌は、保有していた成熟卵のほとんど全てを2分程で放出した。前繁殖期の雌は卵を放出せず、腹部を解剖したところ、卵巣は発達していないことがわかった。繁殖期になったばかりとみなした雌は約1100本の卵巣小管を保有し、多くの成熟卵と亜成熟卵、未熟卵をもっていた。これらを合計すると、蔵卵数は30,000個と考えられた。ただし、保有していた成熟卵の数には個体変異が大きかった。保有成熟卵数と卵の放出速度の間に正の相関が認められたので、たくさんの成熟卵をもっていた雌ほど産卵衝動は高かったといえる。雌の捕獲時刻と保有成熟卵数には何の傾向も認められず、日中ならいつでも産卵活動を行なっていた可能性の高いことが示唆された。放出された卵の長径は0.50㎜、短径は0.38㎜で、他のトンボ科の種の卵よりも小さかった。これらの卵のほぼ全ては受精しており、30℃や35℃の水温では5日以内に孵化したが、20℃では約18日かかり、15℃の水温では孵化しなかった。したがって本種は小卵多産の傾向が強いばかりでなく、高水温下での卵発生は速く、幼虫の発育も速いので、この形質が夏から秋にかけて我が国で個体数を急増させた要因と考えられた。


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