| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA2-068 (Poster presentation)

ナガサキアゲハにおける擬態型と非擬態型の生活史形質の比較

*古俣慎也(京都大・理),林仲平(東海大(台湾)・生命科學),曽田貞滋(京都大・理)

チョウ類におけるベイツ型擬態では,雌の一部にのみ擬態型が出現することがある.この場合,雌における擬態型と非擬態型の2型は,擬態型がモデルに対して少数で有利となる負の頻度依存淘汰によって維持されていると考えられている.擬態型の出現頻度増加が捕食回避の効果を減少させる.しかし,野外において擬態型の出現比率とモデル種の個体数が調べられた例は少なく,モデルが生息しないのに擬態型が出現するようなパターンも知られている.

我々はナガサキアゲハ雌の擬態型と非擬態型の維持機構を明らかにする研究の一環として,2013年7月と11月に台湾花蓮縣吉安郷において野外調査を行った.モデルであるベニモンアゲハの個体数が非常に少ないにもかかわらず,ナガサキアゲハの擬態型と非擬態型の比率はほぼ1対1であった.モデルよりも擬態型の個体数が多い可能性があることがわかったため,この系における擬態多型の維持機構に関しては,生活史形質の比較などから再考する必要があると考えた.

そこで,飼育実験によって,台湾産ナガサキアゲハにおける発育に関する擬態型と非擬態型の間の差異を調べた.擬態型と非擬態型の雌を1頭ずつ採集した後採卵し,25℃恒温条件で飼育した.擬態型雌からは,雄と擬態型雌のみが得られた.非擬態型雌からは雄と擬態型,非擬態型が得られた.擬態型と非擬態型の比率はほぼ1対1であった.非擬態型雌から得られた個体を比較すると,体サイズは雄,擬態型,非擬態型の順に大きくなるが,幼虫期間は雄,非擬態型,擬態型の順に長くなった.よって,擬態型は体サイズが小さいにもかかわらず,幼虫期間が長いことがわかった.

今後,成虫の寿命や蔵卵数,野外での雄の雌の2型に対する選好性などを明らかにし,雌のみに現れる擬態に関する2型の維持機構を解明したい.


日本生態学会