| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA2-085 (Poster presentation)

アカネズミの尾長の地理的変異と環境要因との関係

*永井朋子(北大・環境科学院),齊藤隆(北大・FSC)

同種集団間における形態の地理的変異は、生息環境の違いによって生じる淘汰の種類と強さを反映している。地理的変異のパターンとその動因の解明は、適応進化や種分化のプロセスの解明につながる。近縁種間において、ベルクマンのルールやアレンのルールのような、地理的変異の一定の規則が見られることが知られている。一方で、これらの規則は普遍的ではなく、特定の分類群でしか見られないという指摘もある。これまでの研究の多くは、単一要因の効果のみに注視してきたが、複数の要因が同時に相補的に影響することは十分に考えられ、正確に評価するためには、複数の要因を包括的に解析する必要性が指摘されている。本研究で用いたアカネズミは、環境の異なる島に広く分布し、尾長の変異に富むことが知られており、地理的変異を研究する対象として相応しい。そこで本研究では、アカネズミの尾長の地理的変異のパターンを整理すること、さらに、複数の環境要因に着目し、尾長の変異をもたらす要因を明らかにすることを目的とした。単一要因解析においては、捕食者種数だけが有意な効果を示したが、複数の要因解析においては、捕食者種数が多く、さらに他のネズミ種数が少ない地域において、尾長が長いことが明らかとなった。長い尾は一般に樹上適応の結果だと考えられている。従って、本解析結果は、捕食者が豊富な島では捕食者から逃れるために樹上に駆け上がる頻度が高く、樹上を効率的に利用するために尾が長くなったと解釈された。さらに、他のネズミが豊富な場合、捕食圧が相対的に軽減され、捕食者から回避する必要性が減少し、尾長は長くならないと解釈された。本研究を通して、地理的変異をもたらす要因を正確に評価するには、複数要因に着目し、同時に解析することの重要性を示すことができた。


日本生態学会