| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA2-091 (Poster presentation)

日本各地のホソウミニナの遺伝的集団構造

*伊藤萌,小島茂明(東大・新領域)

日本の沿岸域の代表的な巻貝であるホソウミニナ Batillaria attramentaria (= B. cumingi)は、ミトコンドリアDNAの部分塩基配列の解析から、黒潮流域と対馬暖流流域に分布する遺伝的に異なる2つのグループから構成されており、各グループがさらに細かく分化していることが示されている。このような地理的な遺伝的差異は、直達発生による低い分散能力のため、過去に環境変動などで集団が容易に隔離されて生じたと考えられ、プランクトン幼生期を持つ水棲無脊椎動物が、海流などによる分散によって分布域拡大や他集団との遺伝的交流が可能であるのとは異なる特徴である。一方で,本種では人間の商業活動に伴った他地域への移入も起きていることから、現在の集団の遺伝的構造に人間活動が影響していることも考えられる。本研究では日本各地のホソウミニナ個体群の遺伝的集団構造を、ミトコンドリアCOⅠ遺伝子の部分塩基配列および14のマイクロサテライト遺伝子座を用いて解析した。マイクロサテライト遺伝子座の解析結果から,日本海周辺域および関東以南の太平洋側に分布する2つのグループに加えて、北海道から東北地方太平洋岸に分布する第3のグループの存在が明らかになった。これは海流間で分化した2つのグループの2次的接触によるものと考えられた。青森県尾駮沼の集団は本来ホソウミニナが生息していなかった地域へ愛知県から人為的に移入され、定着した個体群であると判定された。三陸沿岸では岩手県宮古湾と宮城県万石浦の集団間で遺伝的分化が検出されず、水産種苗に紛れての人為的移入が考えられた。北海道内では有珠湾からオホーツク岸へ向かう最近の個体移動が検出され、自然分散以外の可能性が示唆された。


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