| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA2-093 (Poster presentation)

ミジンコにおける隠蔽個体群の共存機構

*熊谷仁志(東北大院・生命),石田聖二(東邦大・理),牧野渡,占部城太郎(東北大院・生命)

ミジンコ属 (Daphnia)は通常は単為生殖で繁殖し、不適な環境において有性生殖により休眠卵を作る。ミジンコ個体群では、環境が厳しい冬期はこの休眠卵で越冬すると考えられているが、プランクトンとして浮遊越冬する個体も存在する。春、環境が好転するとミジンコは繁殖を開始するが、休眠卵で越冬した個体は成熟に時間がかかるのに対し、浮遊越冬個体はすぐさま繁殖を開始できるため、個体群創設の上で有利であると考えられている。もし、浮遊個体が当該年の個体群創始者になるのならば、休眠卵の価値が低下するため遺伝的多様性は低くなり、毎年同じような遺伝的組成を形成すると考えられる。しかし、ミジンコ個体群における遺伝的組成の経年変化に関する知見は乏しい。そこで、2008年から3年間、山形県畑谷大沼のDaphnia個体群を対象に、マイクロサテライト8座を用いて遺伝的多様性と遺伝的組成の変化を調べた。調査の結果、毎年約60MLGs(Multi Locus Genotypes)が同定され、3年間では計187MLGsが出現した。このうち3年間連続して出現したのは3MLGsだけで、これらは浮遊個体として越冬することがわかった。しかも、このうちの1MLGは毎年夏から冬にかけて卓越した。そのため、遺伝的組成は毎年似た傾向を示した。しかし、遺伝的多様性は毎年維持されており、休眠卵越冬個体の重要性も伺われた。そこでSTRUCTUREによりクラスター解析を行った所、2つの分集団(A, B)に分かれていることが判明し、休眠卵越冬個体は分集団Aに、浮遊越冬個体は分集団Bに属していた。これらの結果より、遺伝的多様性が減少することなく、異なる越冬様式を持つ分集団が共存可能な機構について議論する。


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