| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA2-108 (Poster presentation)

協力行動はグループからの離脱によって維持される

*吉川萌美(龍谷大・理工),近藤倫生(龍谷大・理工)

生物社会において構成員間の協力が維持される仕組みの解明は、生態学における主要な問題の一つであると同時に、様々な社会的問題解消のヒントにもなりうる。協力行動の維持機構に関する過去の研究では、メンバーの社会からの出入りを考慮しない「閉ざされた社会」を仮定することが多かった。この「閉ざされた社会」の仮定のもとでは、互いに協力し合っているメンバーに、非協力者が侵入・出現すると、それまで成り立っていた協力関係が駆逐されてしまう。しかし、これまで所属した社会を構成員が離脱したり、複数の社会の間を構成員が行き来したりする「開放された社会」では、これは成り立たない可能性がある。社会のメンバーが、出入りすることによって生じる一種の「社会サイクル」の中で協力関係が維持される可能性があるためである。本研究では、数理モデルを利用して、「閉ざされた社会」の仮定のもとでは協力行動が維持されないような環境条件下でも、協力者や非協力者の集団への侵入・離脱を許す「開かれた社会」の仮定のもとでは、協力の維持が可能であることを示す。まず、協力ゲームのもとで協力者・非協力者が他のメンバーと出会った時の利得に基づいてそれぞれの戦略を持つ集団の成長が定まるような個体群動態モデルを解析する。そこから、協力者集団に非協力者が侵入・成長して一定の密度に達すると、協力者が社会から離脱し始め、ついで非協力者も社会から離脱するような、協力者・非協力者の「社会サイクル」が起きることを示す。さらに、多数の社会とそれらの間の個体の移動を考慮に入れた、「メタ個体群」数理モデルを解析し、「社会サイクル」の存在下では、より広いメタ社会スケールにおいて協力行動が存続しうることを示す。


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