| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA2-115 (Poster presentation)

直接観察法によるツキノワグマの春の採食行動と採食物の栄養価の関係

*古坂志乃(農工大・農),小坂井千夏(神奈川県博),根本唯(農工大院・連合農学),原口拓也(農工大院・農),山﨑晃司(茨城県自然博),小池伸介(農工大・農)

ツキノワグマ(以下、クマ)にとって春は、冬眠によって低下した体力の回復・および育児を行う季節である。そのため、この時期にどのような採食戦略をとるかは、クマの生存に大きな影響を与える。しかし、春のクマの食性の研究例はほとんどなく、具体的な採食品目の特定や、採食物の選択要因は知られていない。そこで、本研究はクマの採食行動を直接観察することで、採食品目の特定を行うとともに、採食物の選択に影響を与える要因を栄養学的な視点から検討した。

調査は栃木県日光市の足尾山地にて2013年4~7月にかけてクマの直接観察を行い、採食品目とその採食時期を特定した。また、調査地内に生育する木本類の葉の栄養価を測定し、それらの栄養価の差異と、クマによる採食の有無との関係を検証した。並行して、主要な採食物である木本の2種の葉の粗タンパク質(以下、CP)含量、中性デタージェント繊維(以下、NDF)含量、エネルギー量の開葉からの季節変化を測定した。

その結果、調査期間を通じて7種類の食物を特定することができた。クマは採食物を季節変化させ、4月は草本類、5月は木本類の葉や花、6月以降はアリを主に利用した。調査地内に生育する木本類のうち、クマによる採食が確認された木本類は、確認されなかった木本類に比べて、CP含量が高く、NDF含量が低かった。また、木本類の葉の栄養価は、いずれの種も開葉からの時間経過とともに、CP含量が減少し、NDF含量が増加したが、クマがそれらの葉を利用したのはCP含量が高く、NDF含量が低い時期のみだった。以上の結果から、春のクマはCP含量が高く、NDF含量が低い食物を選択していると推定される。


日本生態学会