| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA2-133 (Poster presentation)

なぜコキクガシラコウモリは冬期出洞するのか?

*佐藤 雄大, 関島 恒夫(新潟大院・自然科学)

冬眠期における中途覚醒は多くのエネルギーを消費することから,その後に続く出巣は,越冬戦略において重要な適応的意義があると考えられる.多雪地に生息するコキクガシラコウモリは,冬期に,低温かつ降雪があるにも関わらず,中途覚醒の後に一部の個体が出洞していることが明らかとなってきた.中途覚醒は日没に同調して行われており,この時間は活動期においてもっとも餌生物量が多くなるとされていることから,冬期における出洞は採餌を行うためであると考えられた.しかし,冬期に低温かつ多雪な環境下では,餌生物が活動していない可能性があることから,出洞には採餌以外の役割も考えられた.そこで,本研究では,冬眠期間中におけるコキクガシラコウモリの出洞要因を明らかにすることを目的とした.

調査は,2012年4月から2014年2月にかけて行われた.調査期間にわたり一部の個体を捕獲し,生殖器の外部形態の状態を記録した.冬期は出洞個体数をカウントし,出洞の前後における体重測定,オスの精巣と精巣上体サイズの計測およびメスに対する膣スメアを実施した.

その結果,コキクガシラコウモリは,出洞前と比べて帰洞時に体重が有意に増加していたことから,出洞期間中に採餌を行っている可能性が高いことが示唆された.さらに,オスの精巣および精巣上体サイズの推移をみると,精巣は12月に完全に委縮したが,精巣上体は10月から11月にかけて有意に小さくなるものの委縮はせず,冬期も同程度の大きさに維持されていた.このことは,オスが冬でも精巣上体に精子を貯蔵し,交尾の機会を覗っている可能性を示唆する.本発表では,上記結果に加えて,膣スメアによる精子検出の結果を示し,本種が冬眠期に出洞する理由について,受精遅延という繁殖システムの視点から,冬眠期の交尾の意義について考察する.


日本生態学会