| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA2-135 (Poster presentation)

護岸による生息環境劣化はニホンウナギにどのような影響を与えるか?

*板倉光,甲斐野翼,三宅陽一(東大・院新領域・大海研),北川貴士(東大・大海研),木村伸吾(東大・院新領域・大海研)

ニホンウナギは我が国の重要な水産資源であるが,その漁獲量は近年激減しており,資源の保全が急務となっている.本種資源の減少の一因として生息環境の悪化が指摘されており,護岸による改修工事が進行した河川,湖沼ほど漁獲量の減少率が高いことが報告されている.しかし,護岸が本種の生態にどのような影響を及ぼすか,その詳細は不明である.本研究では,護岸がニホンウナギの生態に与える影響を明らかにするため,利根川水系において野外調査を実施した.

2011年6月から2013年9月にかけて,利根川水系本流と同水系印旛沼の護岸と自然河岸水域(全15地点)において,鰻筒を用いて毎月定量採集を行った.得られた586個体から個体数密度および肥満度を求めた.また,胃内容物分析と炭素窒素安定同位体比分析によって食性を検討することで餌環境を評価した.

個体数密度および肥満度は護岸に比べ自然河岸水域で高い値を示した.胃内容物分析の結果,空胃率は護岸で高く,胃充満度指数は自然河岸水域で高かったことから,摂餌個体の割合および摂餌量も自然河岸水域で多かった.また,胃内容物の多様度指数も同様に自然河岸水域で高い値を示した.さらに,護岸水域からは,自然河岸水域における胃内容物の大部分を占めた陸生の貧毛類が全く出現しなかった.このことは,護岸が水域の餌生物の多様性を低下させるだけでなく,陸から水域への餌生物の供給を遮断している可能性を意味している.この結果は,安定同位体比混合モデルによっても支持された.

以上より,河岸環境が作り出す餌環境の違いに起因した食性の違いによってニホンウナギの分布および栄養状態に悪影響が及んでいることが示唆された.


日本生態学会