| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA2-150 (Poster presentation)

岩手県におけるゴマシジミ生息地の保全を目的とした食草を含む群落への3年間の刈取り管理の効果

*新井隆介(岩手環保研/信大院・総合工),大窪久美子(信大・農)

ゴマシジミの生息地保全に有効な植生管理手法を明らかにするため、岩手県盛岡市の生息地に隣接する同様な立地環境である湿生群落において、2011年から刈取り処理実験を実施した。刈取り処理はゴマシジミの生活史に配慮の上、6月に実施することとし、2011年は全草の処理を実施した。しかし、食草であるナガボノワレモコウへの負の影響がみられたため、2012年と2013年は食草のみを選択的に残す処理を実施した。調査は刈取り区と無処理の対照区において、5×5㎡の方形区を各5プロット設定し、植物社会学的植生調査と立地環境調査を行い、さらに食草の開花シュートについて、その数と花穂数/シュートを計測した。その結果、刈取り区は対照区に比べて、群落内の相対光量子密度が高く、食草の競合種であるヨシの優占度は低い値を示し、群落の階層構造では食草に対する被陰程度は小さかった。また、生活型組成では地上植物の割合が小さく、水湿植物や一年生または二年生植物の割合が大きかった。さらに、2012年から実施した食草のみを選択的に残す処理により、2013年には刈取り区は対照区に比べ、食草の優占度が高く、シュート数が多くなり、花穂数も高い値を示した。本刈取り処理は、群落上層のヨシおよび木本類などの優占や生長を抑制するとともに、食草に対する被陰程度を低下させ、群落内の良好な光環境を形成した。一方、対照区では食草は攪乱を受けないため、一時的に個体が充実するが、遷移進行に伴う群落上層のヨシや木本類などの被陰を受け、群落内の光環境が悪化したため、衰退したと考えられた。さらに食草のみを選択的に残す刈取り処理は全草刈りよりもダメージが軽減され、生息地の保全には有効であると考えられた。


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