| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA2-154 (Poster presentation)

北海道阿寒湖における球状マリモ集団構造の長期変化

*熊谷七美(北大・理),大原雅(北大・院・環境科学),若菜勇(釧路市教委・マリモ研)

マリモ(Aegagropila linnaei)は北半球の高緯度地方に広く分布する淡水緑藻の1種で、糸状の藻体が集まって、球状の集合体を形成することでよく知られる。わが国では北海道阿寒湖の集団が国の特別天然記念物に指定されており、古くから様々な保全活動が講じられてきた。しかしながら、生育状況と生育環境は長期的に悪化する傾向にあり、近年では、湖水の透明度の上昇に伴って沈水植物が急速に分布範囲を拡大するなど、その影響が懸念されている。そこで本研究では、2013年6月に北部のチュウルイ湾においてマリモを含む沈水植物の分布と生育状況を調査し、生育環境とマリモ集団構造の変化を1997年および2002年のそれと比較することによって、マリモへの影響の評価を試みた。

今回の調査では、同湾のマリモ集団の分布域を縦断する永久調査線L220(基点となる汀線から沖合の終点までの距離は300m)、L240(同200m)、L260(同200m)でベルトトランセクト調査を行って、沈水植物の種類と被度を記録するとともに、各基線上の離岸距離60mと80mの合計6地点でマリモを定量的に採取して大きさや重量を測定した。

その結果、2002年までL220の沖合150~300mに分布していた浮遊状態のマリモ糸状体の群落が完全に消失し、マツモとエゾヤナギモに置き換わっていることが確認された。また、L260の浅所(40~60m)でも、同様の植生の変化が起きていた。一方、残された集合体の群落でも全般に堆積厚や生育密度、集合体を構成する藻体の密度の低下が認められ、L260の60m地点では、破損し扁平化した大型の集合体が増加していた。以上のことから、マリモ生育地への沈水植物の侵入・増加によってマリモの生育状況が圧迫されている現状が明らかになった。


日本生態学会