| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA2-192 (Poster presentation)

植物の進化履歴が材食性昆虫のホスト特異性に与える影響

*渡邉謙二,村上正志(千葉大・理),平尾俊秀,鎌田直人(東京大・農)

ホスト特異性は、植物とその植食者との関係を表現する最も重要な指標の一つであり、近年では、種数推定における最も確度の高い指標としても知られている。しかし、その検証に当たっては、ギルドを単位とすること、また対象とする植物系統を幅広く考慮することが重要となるため、条件を踏まえた実証例は少なく、またその研究のほとんどは葉食者ギルドに限られている。こうした中、ストレス下や腐朽下にある木材を利用するキクイムシ(bark and ambrosia beetles)は、比較的ホスト特異性が低いと言われているが、条件をクリアした実証研究は熱帯における一例に限られており、またその結果は解析方法によって意見が割れている。また近年ではアジアを原産とするキクイムシが欧米で外来生物として商用木の立枯れや観賞植物の幹枯れを引き起こすことが問題となっており、原産地である温帯域からの検証が望まれている。そこで本研究では、東大の秩父演習林において、キクイムシのホスト特異性を17目17種の植物の材を用いた曝露実験から検証した。この結果、キクイムシのホスト特異性は、ホスト幅を指標にした解析では、先行研究が示す通りbark beetleに高く、ambrosia beetleに低いという結果が示された。一方で、ホストの類似性を指標とした解析からは、どちらもホスト特異性を有していることが示された。この結果は、各種のキクイムシが利用する植物のホスト幅は広狭に差があるものの、その種構成はいずれも系統的に近い植物から成り立っており、既知のホスト植物の系統的な情報から他の植物が寄生されるリスクが計測されうることを示している。しかし、この結果を受けて行った種数推定の結果は、日本の記載種数を大きく下回っており、ホスト特異性以外の要因(例えば緯度勾配など)がなお残されていることを示唆している。


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