| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA3-055 (Poster presentation)

湖とダムを上流に有する宇治川のトビケラ群集の特徴

*小林草平(京大),野崎隆夫(神奈川二宮),三上賢司,東城幸治(信大),竹門康弘(京大)

京都府を流れる宇治川は、琵琶湖とその流出河川である瀬田川、天ヶ瀬ダムの下流に位置する。一般に湖沼やダム湖の下流では、流量や水温が比較的安定し、生物群集もそうした環境に対応していると考えられる。琵琶湖は湖沼として数十万年以上の歴史があり、瀬田・宇治川の環境に特異的に適応進化した種が生息していてもおかしくない。本研究は、宇治川のトビケラ群集の特徴を明らかにすることを目的に、宇治川とその周辺河川でトビケラの成虫・幼虫を採集した。

宇治川本川における2012年,13年の4月~11月の成虫採集により、9科23種のトビケラが確認された。採集頻度で優占したオオシマトビケラ、ナカハラシマトビケラ、コガタシマトビケラは、底生動物の調査を併せて量的にも優占種であることが示された。動物プランクトンをラッパ型の捕獲網で収集するスイドウトビケラが多数確認され、瀬田・宇治川に特異的な種であることが分かった。また、ナカハラシマトビケラは幼虫頭部の斑紋が独特で、ミトコンドリアCOI領域(562bp)の分析の結果、宇治・瀬田川と他の河川の個体には明確な遺伝的分化が認められた。推定された分岐年代から、琵琶湖の形成とともにその下流環境に適応した個体群の可能性が考えられた。宇治川に出現する多くの種の共通点として、緩やかな流れと礫・岩質の河床を好むという特徴が挙げられる。一方で、ヒゲナガカワトビケラ、ウルマーシマトビケラ、ヤマトビケラといった日本の礫河川の普通種の多くが不在であった。こうした不在種の共通点としては、砂粒を巣材等に利用する、上下流に幅広く分布するという特徴が挙げられる。


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