| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA3-155 (Poster presentation)

小笠原諸島における絶滅危惧種オガサワラグワの更新状況

*大谷雅人, 生方正俊(森林総研・林育セ), 板鼻直栄(森林総研・林育セ西表)

オガサワラグワは小笠原諸島の父島,母島,弟島に固有の絶滅危惧種であり,母樹の生育密度の低下や外来樹種であるシマグワとの交雑のため,種子繁殖による自然条件下での更新がきわめて困難な状況に陥っている。しかし,2008年のノヤギ駆除事業の開始以降,形態的特徴からオガサワラグワである可能性が高いと推測される実生が弟島において相次いで確認されている。一方で、同島においては近年、シマグワとみられる実生の出現も観察されている。本研究では、弟島のクワ類の実生集団に対する種同定の正確性を検証することを目的として,核内のDNAの相対量の推定を行った。さらに,SSRマーカーを用いた分析によって実生集団が保持する遺伝的変異を成木と比較することで,それらの保全上の意義の評価を試みた。

2012年度の調査では、形態的特徴からオガサワラグワであると判断された実生が弟島北部の約4haの範囲内に21個体確認された。このうち試料採取によって個体の生存に負の影響が生じないと推測された15個体を対象としてフローサイトメーターによる分析を行ったところ、1個体が2倍体のシマグワ、残る14個体が4倍体の純粋なオガサワラグワであると判断された。実生集団に保持されている遺伝的変異は、弟島に現存する成木30個体と同等のレベルであった。また、同島の成木と実生は他島の成木と比べると遺伝的に異質,かつ均一であり,実生の遺伝的組成は成木のそれにきわめて近かった。以上の知見から、同島はオガサワラグワの更新が比較的順調に進んでいるとみられる貴重な自生地であることが示唆された。今後は、実生の生残・成長のモニタリングを続けていくとともに、必要に応じて人為的補完を講じていくことが重要であろう。


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