| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PB2-033 (Poster presentation)

小笠原樹木の樹高制限の水分生理学的解明:樹高を決める水と光のトレードオフ

*才木真太朗(京大生態学センター), 奥野匡哉(京大生態学センター), 吉村謙一(森林総研), 矢崎健一(森林総研), 中野隆志(山梨環境研), 石田厚(京大生態学センター)

小笠原諸島では、谷部から尾根部にかけて土壌が極端に薄くなり、明瞭な乾燥勾配が存在する。固有種テリハハマボウは、湿性谷部から乾性尾根部にかけて、樹高を低下させながら生育するジェネラリストである。我々は、このような樹木は、ジェネラリストとして生きていくために、“土壌乾燥耐性”と“樹高をめぐる高さ競争”を代替可能に選択できる戦略を取ることができる、という仮説を立てた。谷部から尾根部にかけて樹高が大きく低下するにしたがって、水分生理学と解剖学的構造がどの様に変化していくのかを調べた。  テリハハマボウは、土壌深2m、樹高10mから、土壌が浅くなるに従って急激に樹高を低下させていた。乾期の夜明け前の葉の水ポテンシャルは、土壌が浅くなる乾性尾根部と土壌の深い湿性谷部の樹高の高い個体において低下しており、枝の木部道管の水切れ耐性も高くなっていた。葉は、乾性尾根部では、細胞壁を柔らかくし、飽和水時の浸透圧を下げることで、水ポテンシャルの低下に対して膨圧を保てるように応答していた。さらに、葉の葉肉細胞表面積率を高くし、光合成効率が高くなるよう応答していた。湿性谷部では、葉面積を大きくし光を受けやすいような形態をしていた。また、窒素濃度を高めることで、光合成効率を高くなるよう応答していた。炭素安定同位体比の結果は、乾燥勾配中間の個体と比べ、乾性尾根部と湿性谷部の個体において長期的には気孔を閉じる傾向にあることを示した。これらの結果は、乾性尾根部と湿性谷部において、テリハハマボウは、土壌乾燥と樹高を高くすることの異なる要因によって気孔が閉鎖しており、乾性尾根部と湿性谷部で異なる応答をしていることを示唆している。この示唆は、我々の仮説を支持する。


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