| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PB2-046 (Poster presentation)

homeobox遺伝子を過剰発現させたユーカリでの光合成能力向上のメカニズムの解明

井田勇輝(京都工繊大・応用生物),半場祐子(京都工繊大・応用生物),河津哲(王子製紙・森林研)

現在、多くの細胞壁を生合成する遺伝子が同定されており、DNA遺伝子組換え技術の進歩とともに、これらの遺伝子は、様々な改良の取り組みに用いられている。紙パルプ生産産業の観点から、遺伝子組換えによるセルロールの増加とリグニン成分の減少に関心がもたれている。本研究では、異なる細胞壁の生合成経路の酵素をコードし、複数の遺伝子の発現をコントロールするTFsの一つであるホメオボックス遺伝子に焦点をあてた。王子ホールディングス株式会社の研究の一環で、TFsの一つであるHD-Zip classⅡに属するEcHB1遺伝子を過剰発現させたユーカリが作成された。EcHB1遺伝子を過剰発現させたユーカリは、樹高1メートル以上の時での測定では、通常個体より光合成能力が高く、葉肉細胞も増強していることが報告されている。本研究では、これまでにEcHB1遺伝子を過剰発現させたユーカリで確認されている現象の再現性を確認し、より詳細に光合成に関連する性質を評価すると同時に、解剖学的に植物体を観察することで、どのように変化した形状が光合成に影響を与えているのかを明らかにすることを目的とした。成長観察から、日数を重ねるごと葉数、樹高、幹の直径いずれについても通常個体と過剰発現体の差が大きくなった。最終的には、過剰発現体は、通常個体より1.25倍以上の葉を付け、1.2倍樹高が高かった。しかし、幹の直径は、僅かに過剰発現体よりも通常個体の方が上回っていた。葉の断面構造の観察からは過剰発現体において20%の葉肉細胞の表面積の拡大と、60%の葉緑体の表面積の拡大が見られたが、葉の光合成能力には差が無かった。このことから、過剰発現体の成長促進効果は、葉の光合成能力の向上ではなく、葉数の増加によるものであると考えられる。


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