| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PB2-071 (Poster presentation)

安定した成熟林におけるアカガシの萌芽能力の違いと生活史戦略との関係

*瓜生真也, 鄭 欣怡(横浜国大院・環境情報), 磯谷達宏(国士舘大・地理), 吉田圭一郎(横浜国大・教育), 酒井暁子(横浜国大院・環境情報)

高木種の萌芽は撹乱への適応の観点から研究が進んでいる。一方で多くの低木種は撹乱とは無関係に萌芽し、それは林床での効率的な受光体制を維持する機能があると考えられる。林床で生育する高木種の稚樹でも高頻度で萌芽する事例が報告されているが、受光体制との視点は考慮されていない。また安定した森林では林冠に到達した高木種が株立ちすることは稀で、このことは生活史段階に応じて、萌芽への資源配分が変化することを示唆している。しかし非撹乱環境下での成長に伴う萌芽能力の変化を明らかにした研究は見られない。そこで撹乱の稀な成熟林で更新を行う高木種アカガシ Quercus acutaの3個体群を対象に、萌芽状況を調べ、個体サイズ、被陰状態、成長速度、繁殖有無、個体群構造等との関係を解析した。

萌芽個体の割合は主幹サイズが大きくなるほど増加した。ここで林冠下にある繁殖前の稚樹では、同じサイズでも光環境の悪い成長速度の小さな個体ほど萌芽率が高い傾向にあった。しかし萌芽個体に限れば萌芽本数が多いほど成長速度が高いことから、萌芽は弱光下で効果的な葉群配置を行うためと理解できる。林冠に到達して伸長生長が頭打ちし繁殖を行う成木段階になると、主幹の成長速度やサイズとは無関係に相対的に小さな萌芽幹を持つ傾向にあった。成木の萌芽率は、最大サイズと優占度が大きくL字型の個体群構造を持つ低標高地点で高く、最大サイズ、優占度、稚樹密度が小さな高標高地点で低いことから、成木段階の萌芽は、生育適地での将来の幹の交代に備えた後継稚樹的な機能を持つと解釈できた。このようにアカガシは、個体の維持に貢献する非撹乱対応型の萌芽を生活史段階に応じて発生・維持させていると示唆された。


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