| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PB3-033 (Poster presentation)

屋久島におけるヤクシカと人とのかかわりの歴史

*辻野亮(奈良教育大)

屋久島では,近年ヤクシカ(Cervus nippon yakushimae)が増加したために農林業被害や森林植生変化,希少種絶滅などが危惧されている.1940年頃から2010年頃までヤクシカと森林のかかわりを整理すると,1)昔(1940年代~1950年代初頭)でもそれなりにヤクシカが生息していたらしいこと,2)1960年代にヤクシカ生息頭数が減少したこと,3)屋久島の森林は1950年代から1970年代にかけての大規模な伐採や植林,二次林化,林道の敷設などによって大きく改変されていること,4)1980年頃にヤクシカが少なくても農業被害が起こったこと,5)1980年代から1990年代前半にかけてヤクシカ生息頭数は少なかったこと,にもかかわらず,6)1990年代後半から急速に生息頭数が増加したこと,7)2010年からは捕獲圧の増強が行われたこと,がわかった.さらにヤクシカ生息頭数と森林生態系への影響は単純な関係ではなく,順応的管理の必要性が指摘された.屋久島ではヤクシカと森林に関する現状認識を基にして,住民・行政・研究者などを含むさまざまなステークホルダーによる重層的な協働体制が近年整えられつつある.屋久島における人と自然のよりよいかかわりを実現するために,今後はこの協働体制を維持・強化しつつ,モニタリング調査を基にしたフィードバック機構を社会に実装してゆく必要があるだろう.


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