| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PB3-077 (Poster presentation)

集水域の土地利用様式が琵琶湖沿岸域の環境および生物多様性に与える影響の評価

*酒井陽一郎,柴田淳也(京大生態研),苅部甚一(国環研),武山智博(岡山理科大),陀安一郎,谷内茂雄,中野伸一,奥田昇(京大生態研)

生物多様性の低下を引き起こす駆動因を明らかにすることは、生物多様性の保全を行なう上で非常に重要な課題である。森林伐採、宅地造成、農業など集水域の人間活動は湖沼環境を改変し、生物多様性を低下させる人為駆動因となりうる。しかしながら、集水域の土地利用様式が河川水を通じて沿岸環境を改変し、湖沼生態系の生物多様性に及ぼす影響を因果論的に解析した研究はほとんどない。本研究では、大型湖沼である琵琶湖の沿岸環境および集水域における土地利用様式の空間異質性に着目し、ベントスの多様性低下をもたらす駆動因を共分散構造分析によって特定することを試みた。解析の結果、琵琶湖沿岸域のベントスの多様性を低下させる直接的な環境要因として、波による攪乱や湖岸底質の細粒化などがモデルに取り込まれた。特に、底質の細粒化は強い負の影響を及ぼし、細粒化に伴う湖底の微生息環境の均質化がベントスの多様性低下をもたらすと示唆された。最適モデルによると、底質の細粒化は集水域の水田面積割合によって最もよく説明できたことから、水田排水の流入が底質の細粒化を引き起こすと示唆された。圃場整備率と兼業農家率の高い琵琶湖集水域下流部では、ゴールデンウィーク前に集中的に代掻きが行われ、多量の濁水が流入することによって、陸起源有機物粒子が沿岸域に堆積することが報告されている。湖底質の細粒化を抑制するには、水田の有無のみならず、農村社会構造や施業方法も考慮すべきであろう。以上より、共分散構造分析に基づく因果論的アプローチは、生物多様性低下をもたらす直接的な環境要因とその環境改変をもたらす駆動因を抽出する手法として有効であり、生物多様性保全施策の立案に貢献しうる重要な生態学的知見を提供する。


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