| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PC2-001 (Poster presentation)

福岡市周辺の森林の窒素飽和が河川水に及ぼす影響

篠塚賢一*,智和正明,久米篤 九州大学

窒素は植物の成長に大量に必要とされ、欠乏しやすい必須元素の一つである。森林生態系では、土壌基岩から供給される他の必須元素とは異なり、主に大気からの供給に由来している。一方、土壌中の大部分の窒素が生物に直接利用の出来ない不可給態として存在し、植物が利用可能の窒素はわずか0.1%程度である。そのため、供給に対して生物要求量が大きく、森林渓流水に流出する窒素量は少ない傾向にある。しかし、近年、大気エアロゾルや降水などに含まれる窒素供給量の増加や森林の高齢化に伴う窒素要求量の減少により、森林生態系における供給量と要求量のバランスが逆転し、渓流水中において高い窒素流出が日本国内でも見られる様になってきている。この現象は、森林生態系内で観測される窒素富栄養化や土壌の酸性化のみでなく、下流域への窒素負荷などの面から重要であり、下流部を含めた生態系への影響を検討する必要がある。そのためには、森林から流出する渓流水の窒素の起源について基礎的知見を得る必要がある。本研究では福岡県を流れる多々良川流域で硝酸と窒素同位体の測定を行うことで、森林の渓流水中に含まれる窒素起源の推定を行った。本流域は、多量の窒素酸化物の排出源であるアジア大陸や都市に近く、河川の硝酸イオン濃度が増加傾向にあり、森林における窒素保持能力が低下していると考えられている。渓流水中の年間硝酸イオン濃度は0.8mg/L(0.2-1.6mg/L)となり、冬期に高くなり夏期に低くなる季節変化を示した(p <0.05)。また、8月と1月における窒素,酸素同位体の値は2.7‰、3.5‰(8月)、1.5‰、7.3‰(1月)となり、1月の窒素同位体比は8月と比較すると低く(p <0.05)、酸素同位体比が高くなる傾向を示した(p <0.05)。このことから、冬期になると河川水中の硝酸は土壌中の硝化の影響が少なく、大気を起源に持つ窒素の影響が強くなると考えられた。


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