| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PC2-017 (Poster presentation)

異なる標高・地質条件にある屋久島の森林の栄養塩利用特性

*向井真那(京大・農・森林生態),相場慎一郎(鹿大・理工),北山兼弘(京大・農・森林生態)

屋久島は約6300年前の鬼界カルデラの噴火によりほぼ全島が流紋岩質のアカホヤ火山灰に覆われている。このため、屋久島の森林生態系は貧栄養地質の花崗岩上に成立するが、火山灰由来の豊富なミネラルに影響を受けているものと考えられる。本研究では、屋久島の森林土壌とそこに成立する森林の樹木の栄養状態から、火山灰の影響を明らかにすることを目的とした。標高の異なる7つの森林に設置された永久調査区から表層土壌(0-20cm)を4反復ずつ採集した。これらの土壌からPを連続抽出法によって抽出し、異なるP画分毎の濃度を決定し、森林間で比較した。

その結果、標高の上昇に伴い表層土壌の全P濃度が減少することが明らかとなった。このことは高標高でのPの溶脱を示唆する。その一方で、火山灰の影響の指標である土壌の交換態Caの平均濃度は森林によって高い値を示し森林間では土壌P濃度と相関していた。また、吸蔵態Pと標高との間にも負の有意な相関が見られた。吸蔵態Pは時間経過とともに土壌の風化により増加するため、これは低標高で風化がより進んだことを示す。これらの結果は、屋久島は一様に火山灰に覆われたが、その後の土壌形成に対して標高が影響を及ぼし、現在の土壌のP濃度の空間パターンが形成された可能性を示唆する。生葉のN/P(重量比)は全森林で19.5以上の値を示し、P制限の目安の値である16よりも高かった。これは、屋久島ではNに対して相対的にPが欠乏していることを示唆する。また、土壌P濃度と森林のP利用効率(リターのP濃度の逆数)には有意な負の相関が見られた。以上の結果は、屋久島は全島にわたってアカホヤ火山灰の影響を受けているものの、P濃度が低い流紋岩質火山灰であったため、Pの加入が少なく、森林生態系は相対的なP制限の状態にあることを示している。


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