| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


シンポジウム S04-3 (Lecture in Symposium/Workshop)

分子指標を用いて生物の反応を捉える:ダイオキシン汚染がアカネズミ個体群に及ぼす影響

*石庭寛子(国環研),十川和博,安元研一,星信彦,関島恒夫

環境汚染によって生物はその生存に深刻な影響を受ける。環境中に排出される様々な化学物質による汚染の影響やリスク評価を行ううえで、生残率や繁殖抑制などに着目した個体レベルでの評価は、簡便かつ迅速に結果を得られる手法として広く行われてきた。一方で、生物の中には、化学物質の汚染に対して抵抗性を獲得する個体も存在する。汚染環境下では抵抗性を獲得した個体は繁殖成功度を高め、その地域個体群内で優占するようになると考えられるが、生態学的な視点に立てば、そのようなプロセスもまた、環境汚染が個体群レベルで生物に与える影響であるといえる。本研究では、野生の小型齧歯類であるアカネズミを対象種として、ダイオキシン汚染がアカネズミに及ぼす影響について、個体レベルでの評価に加え、ダイオキシン汚染に対して高感受性および抵抗性個体を識別する分子マーカーを開発することにより、個体群レベルでの反応を明らかにする試みを行った。

ダイオキシン汚染地域で捕獲されたアカネズミは、体内にダイオキシン類を高濃度に蓄積していた。さらに、ダイオキシンによって誘導される薬物代謝酵素の発現や精子数の減少など個体レベルで影響を受けていることが明らかとなった。一方、分子マーカーを用いた集団構造解析ではダイオキシン抵抗性個体の優占は見られず、想定された個体群レベルでの影響は認められなかった。そこで、局所適応を妨げる要因の一つとされる遺伝子流動を調べたところ、アカネズミは高い移動分散能力を持ち、周辺からの移出入が頻繁に行われることで、抵抗性個体が集団内に固定できないことが示唆された。


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