| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


シンポジウム S06-1 (Lecture in Symposium/Workshop)

天然林と人工林のモザイク景観におけるハナバチの採餌とカスミザクラの繁殖

*永光輝義,滝久智,菊地賢(森林総研),加藤珠理(首都大),石金卓也,前田孝介,峰翔太郎(東京農大)

林業地域の生物多様性の保全には、残存する広葉樹林の生態系機能を明らかにする必要がある。そこで、ハナバチの送粉機能に注目し、広葉樹林の面積と形状で表される景観構造がハナバチの数量、ツツハナバチ(マメコバチ)の採餌・営巣、ハナバチ媒のカスミザクラの結実・交配に与える影響を調べた。

茨城県北部の15 km四方の林業地域に残された広葉樹林に、互いに1 km以上離して14サイトを設けた。各サイトで、毎木調査を行い、2012・2013年にトラップでハナバチを捕獲し、2013年にマメコバチの繭を入れた営巣材を設置した。また、一部の地域で2011年にカスミザクラ84母樹の花粉散布を推定した。各サイトで、2012・2013年にカスミザクラの開花木を記録し、12母樹のサイズと葉緑素濃度(SPAD値)を測り結実した枝を採取した。そして、サイトごとに、ハナバチの数量、マメコバチの貯食量、カスミザクラの結実数、充実率、母樹内父性相関を求めた。

その結果、送粉機能の景観構造依存性が示された。つまり、広葉樹林の面積が広いと、マメコバチの貯食量が増え、ハナバチの数量が増え、カスミザクラの胚の発育と交配の多様化が促進された。カスミザクラの花粉散布距離は広葉樹林が広い地域で長く、針葉樹人工林によって花粉散布頻度は低下した。逆に、広葉樹林の面積が狭い方がマルハナバチの数量は増えた。一方、送粉機能には広葉樹林の特性も影響した。つまり、樹種構成がハナバチの数量に影響し、開花木密度がカスミザクラの交配に影響した。また、カスミザクラの結実は母樹の資源(サイズとSPAD値)に依存し、自家不和合性により近親交配が回避されていた。このように、景観構造でない要因の重要性や、広葉樹林面積の減少に対する送粉機能の頑健性も明らかになった。


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