| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


シンポジウム S06-5 (Lecture in Symposium/Workshop)

森林の分断化は残存する広葉樹林の生態プロセスにどう影響するか?

*正木隆,五十嵐哲哉(森林総研),原澤翔太(京大・農)

森林は、日本の国土の6~7割を占めており、多くの野生動植物のハビタットとなっている。しかしながら、その森林の約半分は、戦後に植林されたスギ・ヒノキ・カラマツ等の成熟途上の同齢単純林であり、しかも一つ一つの林分は広い。そのため、人工林は林床全体が暗く、CWDや根返りによるピットのない均質な環境が、大面積で存在している。これらの人工林は、一部の生物種をのぞいて好適なハビタットではない。人工林以外の残り半分の天然林が、森林性の生物多様性の保全のためには重要である。

木材生産のための人工林は主に低標高地域に分布する。そこでの天然林の大部分は二次林であり構造上の複雑さは乏しい。しかし、野生生物の餌資源となる果実、鳥類の餌資源となる鱗翅目幼虫、花粉を運ぶハナバチ類、落葉樹の二次林であれば春植物のハビタット、など生態系サービスの元となる多様性を保持する機能はあると予想される。

問題は、その天然林の大部分は、人工林によって断片化していることにある。尾根部は成長が悪いので人工林に転換されず、天然林が残されていることが多い。一方、渓畔域は、主要人工林樹種であるスギの生育適地ということもあり、人工林となっている場合が非常に多い。

このような広葉樹林の空間配置が、個体群維持のために広い空間を要する生物(植物の花粉散布と種子散布、動物の行動圏など)にとってどの程度適切なのか、定量的に評価する必要がある。そして、その評価にもとづき、たとえば、林業の事業体の経営の支障にならない範囲で人工林内に広葉樹などを混交させることなどの施業が提案されることになるだろう。

本講演では、上記の観点から鳥類の分布と広葉樹林の配置ついて研究した結果を報告するとともに、最初の4名の演者の結果とあわせて、林業地域における生物多様性保全のための広葉樹林の配置指針について、考えてみたい。


日本生態学会