| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


シンポジウム S07-2 (Lecture in Symposium/Workshop)

林冠節足動物群集の構造特性の解明~今回は半翅目編~

*岸本圭子, 石川忠(東大・広域), 市岡孝朗(京大・人環)

Erwin (1982, 1983) は、新熱帯の季節林で殺虫剤噴霧法によって樹冠部に生息する甲虫類を採集し、林冠の昆虫の種多様性は林床の2倍以上高い等の仮定に基づいて、地球上の昆虫の種数を約3千万種と見積もった。この報告によって、熱帯林の林冠部に生息する節足動物の多様性の高さに注目が集まったと同時に、種数推定の研究の端緒が開かれた。結果、熱帯林の植食性昆虫の寄主特異性や、昆虫の種数推定に関する実証研究は、この30年の間に飛躍的に進んだ。しかしながら、それらの研究に対して、林冠の節足動物群集の構造特性に関するデータは、以下の点で不十分である。1)陸上生態系の中で最も豊かな生物多様性を擁する熱帯雨林における研究が少ない。2)熱帯の昆虫群集はダイナミックに変動することが分かってきたが、群集の時間変化に着目した研究が少ない。3)林冠部へのアクセスの難しさから、多数の樹種を対象にした研究がほとんどない。4)分類学的な研究の遅れや種数の多さが起因して種レベルの解析がなされず高次分類群でまとめた研究が依然として多い。これらの問題点を克服し、林冠の節足動物群集の構造特性をより詳細に解明することは、熱帯全体の高い生物多様性が維持されるメカニズムの理解につながると考えられる。

演者らは、東南アジア島嶼部熱帯雨林の林冠部の節足動物群集の構造特性の解明を目指し、2009-10年の間に6回、ランビルヒルズ国立公園で調査を実施した。調査は毎回、公園に設営されたクレーンを使って130本以上の樹木に接近し、樹冠の節足動物を定量的に採集した。調査期間全体で、半翅目、クモ類、甲虫目の順で個体数が多かった。今回は、半翅目群集の種レベルの解析を行った結果、林冠の花量が増えた時期に捕食性のテングカスミカメ属1種が著しく増える等、群集構成種は時期によって異なることがわかってきた。


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