| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


シンポジウム S07-3 (Lecture in Symposium/Workshop)

樹冠のアリの巣は完全に未開の地だった

丸山宗利(九大・博物館)

さまざまな生物がアリの社会と共生関係にある。とくに生活史の一部あるいはすべてをアリのコロニーに依存するものを好蟻性生物という。好蟻性生物の大部分は多少とも特定の寄主と関わりをもつ、すなわち寄主特異性を持つ。そのため、好蟻性生物の種多様性は、アリの種数の豊富な熱帯に行くほど高い。しかし、東南アジアにおける好蟻性生物の調査はまだ端緒についたばかりで、とくにランビル国立公園では、ほぼ未調査の状態にある。現在までにわかっているアリの種多様性の高さ(480種)を考慮すると、これから多くの未知種が発見されることは疑いない。同国立公園の高木の上部では、フクラミシリアゲアリの一種であるCrematogaster difformisが優占し、捕食者等として生態的に重要な役割を担っている。本種は樹皮下と着生アリ植物(シダ類)に営巣し、その巣からはこれまでにユモトゴキブリPseudoanaplectinia yumotoiとイチオカマグソコガネPterobius itiokaiが見つかっており、いずれも属としてC. difformisに固有のものである。2011年、総勢6名でC. difformisの巣の徹底調査を行った。その結果、新たにミツギリゾウムシやアリヅカムシの新属新種が見つかった。いずれも非常に変わったもので、近縁種が不明であり、東南アジア熱帯のアリの巣、とくに樹冠の調査がいかに調べられていないかを端的に示す結果となった。さらに、これまでに幼虫の生態が不明であった好蟻性クロコバエの幼虫が発見されたり、社会寄生性が予想されるフクラミシリアゲアリの一種Crematogaster tanakaiが再発見されたり、ほかにも興味深い成果を得ることができた。本講演ではそれらの昆虫の分類や調査の様子を紹介する。


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