| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


企画集会 T01-1 (Lecture in Symposium/Workshop)

群集安定性理論における実証研究の今日的限界: 理論と連携して枠組みから問い直す

東樹宏和(京大・人環)

生物群集の動態と安定性に関する議論は、生態学の歴史の中で常に中心に据えられてきた。しかし、群集内の種多様性を維持するしくみについて、未だに共通理解が得られているとは言い難い。群集全体を模型化する理論(トップダウン型)と、個々の生物種間相互作用の精密な観察から事実を積み上げる実証研究(ボトムアップ型)との間には、未だに大きな隔たりがある。この2つの型の研究を統合する研究戦略が必要なのは明らかであり、ここに認識されてはいても踏み込めなかった群集生態学のフロンティアが存在する。肉眼での種間相互作用観察や捕食者の胃内容分析のデータを群集モデルに組み込む手法が近年盛んになってきているが、限られた種類の相利共生ネットワークや食物網にその対象が限定されている。また、データを取る研究者とそのメタ・データを解析する理論家の間に隔たりがあり、非現実的な仮定でシミュレーションが行われる例が多い。講演者らは、群集内の生物種間関係の全体像を大規模に解明する次世代シーケンシング技術群を開発し、個人で膨大な群集メタ・データを手にする新たな戦略を立ち上げた。これまで群集生態学のブラック・ボックスとされてきた地下真菌群集にこの技術を適用したところ、3日程度のフィールド・ワークを基にして、数百種類の真菌と数十種類の植物で構成される複雑な共生ネットワークの構造を解明することができた。群集構造の「スナップ・ショット」をとることができるこの技術は、地域群集間の比較や時間軸に沿った動態の解析を容易にする。この利点は、理論と実証のフィードバックを加速すると期待される。研究の展開例として、種多様性の異なる地域群集間で共生ネットワークの構造を比較した結果について紹介したい。


日本生態学会