| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


企画集会 T09-3 (Lecture in Symposium/Workshop)

八重山と蘭嶼の生物・文化多様性を侵すもの——炭坑・観光・核廃棄物

*安渓遊地(山口県立大学),中生勝美(桜美林大)

現在世界遺産登録をめざしている西表島では、明治半ばに始まる炭鉱開発以来、島の自然は大きな改変を経験してきており、最近では日本で最高の河川の生物多様性を誇る浦内川河口域に建設されたリゾート基地の悪影響が懸念されている。このリゾートの差し止めを、西表の島民は訴えたが最高裁で敗訴した。過去には廃坑への使用済み乾電池廃棄や、国家石油備蓄基地、放射性廃棄物貯蔵施設の計画もあった。

また、台湾東南部の蘭嶼島では、原発からの10万本のドラム缶に入った「低・中(ママ)レベルの核廃棄物」を集中的に「中間貯蔵」する施設が作られている。蘭嶼島の核廃棄物は海岸からすぐ近くに貯蔵されており、台湾政府の公式見解として「津波はない」とされているため、施設に具体的な津波の対策は取られていない。しかし、この島には複数の津波伝承があり、単なる神話ではなく、過去に大規模な津波が来た可能性がある。1771年の明和の大津波は、八重山・宮古を直撃して、八重山住民の3分の1が死亡するほどの大きな被害を出した。同心円状にひろがる津波が蘭嶼島をも襲った可能性は高いが、まったく研究されてこなかった。蘭嶼島へ津波が襲った場合、核廃棄物を入れたドラム缶は、海に流出し、八重山だけでなく黒潮に乗って日本海、太平洋の沿岸を広く汚染する可能性がある(中生勝美「低レベル放射性物質と東シナ海の津波:台湾離島の核廃棄物貯蔵場」桜美林大学国際学研究所編『東日本大震災と知の役割』勁草書房、2012年:217-241頁)。

島外からもたらされる開発が、これらの島の地域の生活の基盤としての生物と文化の多様性に与える影響については、充分な影響評価がなされておらず、地元住民を主体として広く利害関係者の声を聞く重層的環境ガバナンスの構築が課題である。


日本生態学会