| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


企画集会 T11-1 (Lecture in Symposium/Workshop)

外来植物の環境適応:侵入系統を利用した解析による適応形質と環境要因の探索

松橋彩衣子(広島大・サステナセンター)

広域に分布する植物は、様々な環境勾配に適応していく必要がある。分布域を拡大する際、まずどの環境要因に対しどの形質を適応させていく必要があるのだろうか。この問題に対し、本研究では外来種の侵入系統を利用してアプローチする。

外来種は、ある地域に複数の侵入系統が分布を拡大する場合がある。これらの系統を区別することができる場合、その種がその地域の分布拡大に成功していく過程を複数回観察し、適応進化の反復をとることが期待できる。アブラナ科の越年生草本ミチタネツケバナは、近年日本で急速に分布域を拡大した外来種である。現在日本では、由来の異なる3つの侵入系統がそれぞれ広域に分布を広げている。3系統は各地の環境に速やかに適応していった過程が予想できるが、どの環境要因によりどの形質が影響を受けているのかは分かっていない。そこで、分布拡大の際に重要となった環境要因と適応形質を特定するために、生息地環境と形質の関係を侵入系統ごとに解析し、全系統に共通して環境応答がみられる形質を探索した。全国57地点の92個体から種子を採集し、同一環境下で栽培し、形質(繁殖形質、フェノロジー、重量等)を定量化した。そして各形質が各採集地点周辺の環境(気温、降水量、日照)の影響を受けているかを侵入系統ごとに解析した。その結果、3系統に共通して気温が低い地域ほど開花時期が遅くなる傾向が検出された。本種のような春咲の植物にとって、遅い開花フェノロジーは、遅霜等による花や果実へのダメージを回避できることから、冬が長く厳しい地域に適応的な形質だと考えられている。これらから、日本で分布するミチタネツケバナは各地の気温の影響により、侵入からわずか数十年以内に、3系統が独立に開花フェノロジーを適応させた過程が示唆された。


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