| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


企画集会 T23-2 (Lecture in Symposium/Workshop)

特定外来生物カワヒバリガイの分布拡大を防ぐ試み:研究者のできること・できないこと

伊藤健二(農環研)

特定外来生物カワヒバリガイは中国・朝鮮半島から日本に侵入した付着性二枚貝であり、水路や利水施設内部に侵入して通水障害を引き起こすと共に、在来生物への大きな影響があることが知られている。これまでの調査の結果、本種の分布には河川や水路を経由した拡大を示唆するパターンが見つかり、遺伝子の解析からも水路で接続している湖や河川の間に高頻度の遺伝的交流があることも示された。これらの結果は、本種の広域分布の少なくとも一部が、水利用のために運用されている水路やパイプラインなどの利水施設を経由して生じていることを示唆している。

分布拡大が利水施設を経由している以上、その拡大を抑制・管理するためには、これらの施設の運用を改善することが有益であろう。特に、カワヒバリガイがまだ侵入していない地域に水を送っている施設の管理を集中的に行う事は、未侵入地域への侵入を阻止するために重要となる。しかし、現在このような対策は十分に行われているとは言いがたい。被害の程度が場所によって大きく異なるうえ、問題に関わる現場や組織が多岐にわたるため、対策の目標を一致させることも難しいのが現状だ。

この状況を改善すべく、農業環境技術研究所は実施可能な取り組みを少しずつ進めている。具体的には(1)対策の基礎となる分布データの公開、拡大予測 (2)現場が実現可能な密度抑制対策の検討やモニタリング手法の開発(3)勉強会や被害対策への参加と情報の共有、などである。研究機関は問題解決の主体ではなく「できないこと」も数多くあるが、当事者ではない立場から問題に関わるからこそできることも多い。講演では、これまでの取り組みを通じて学んだ(学びつつある)「研究者としてできること」を議論・共有したい。


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