| 要旨トップ | 受賞講演 一覧 | 日本生態学会第61回全国大会(2014年3月,広島) 講演要旨


日本生態学会宮地賞受賞記念講演 4

変わりゆく森林・林業、生物多様性

山浦悠一(北海道大学大学院農学研究院)

 日本は世界有数の森林率・人工林率を誇る森林・人工林大国であり、同時に外国に木材資源を依存した木材消費大国でもある。現在日本は人口が減少を始め、土地利用を含めた社会システムが新たな局面を迎えている。講演では、これまでの日本の森林・林業、生物多様性の歴史を振り返った上で現状を分析し、今後の林業の役割について論じたい。

 現在日本の国土を見渡すと、山地は成熟した森林でびっしりと覆われている。日本はまさに森林大国である。しかし、かつて日本の国土は荒廃していた。明治期から戦後直後にかけて森林は切りつくされ、なだらかな山地は軒並み禿山、つまり草地と化していた。さらには、古地図や絵図などの古資料や土壌分布に基づき、かつて日本で草地は重要な生態系・土地利用だったという指摘も近年なされている。

 明治以降の100年間の土地利用の歴史を振り返ると、最も大きな変化は、草地の激減と人工林の増加、そして森林の成熟といえるのではないだろうか。戦後の肥料・燃料革命によって雑木林と草地は維持されなくなった。経済的な役割を失った天然林と草地は人工林に置き換えられた。安価で均質な輸入木材に押されて林業は衰退し、人工林を含めて森林は伐採されず成熟した。日本はすっかり見晴らしが悪くなり、古歌で詠まれた秋の七草を含め、草地性生物は全国的に減少した。そして現在、伐期を迎えた多くの人工林は管理が放棄され、天然林への再生が議論されている。

 これらの歴史的経緯と現状を踏まえ、先人が多大な努力により築いた豊富な森林資源を賢く利用し、木材生産と生物多様性の保全、双方にプラスとなるような展開を見出したい。さらに、世界で日本の森林・林業研究が果たしうる役割について考察したい。

日本生態学会