| 要旨トップ | 受賞講演 一覧 | 日本生態学会第61回全国大会(2014年3月,広島) 講演要旨


日本生態学会大島賞受賞記念講演 2

生物群集の形成機構を局所スケールとマクロスケールの双方から明らかにする

久保田康裕(琉球大学理学部)

 生物群集(生物多様性)のパターン形成には、マクロ進化、種の環境適応、分散制限、種間・種内相互作用など、究極的なものから至近的なものまで、多様なプロセスがある。これらの進化生態学的プロセスは、様々な時空間スケール上で階層的に作用している。したがって、生物多様性の起源と維持のメカニズムを理解するには、地域から全球にかけて観察される“多様な生物種の集合パターン”を記述し、“多様な進化生態学的プロセス”がパターン形成に果たした役割、各プロセスの相対的重要性を定量することが必要になる。

 私の今までの研究では、森林群集を広域かつ長期間にわたって観察して得られたデータを用いて、競争、分散制限、環境フィルター等の生態学的プロセスを分析し、局所群集の形成メカニズムを解明してきた。その研究過程では、マクロ進化や地理的条件等の歴史的偶然性が、群集のパターン形成に大きな影響を与えていることも把握できた。したがって、最近では、局所群集の研究をスケールアップし、生物地理学やマクロ生態学の研究アプローチを併用し、群集形成の進化生態学プロセスを解明しようとしている。

 今回の講演では、局所スケールの群集研究を基盤として、分類学的情報、機能情報、系統情報を統合的に用いたメソスケール・マクロスケールの研究を紹介する:1)日本列島の維管束植物種の多様性パターン形成における歴史効果、2)被子植物樹木種多様性の緯度勾配と大陸間アノマリーの形成要因。これらの研究結果から以下の点を指摘する。至近的な生態学的プロセスの分析を目的として収集された局所群集データを集約することで、局所研究では把握できない地域固有の群集形成プロセスが明らかになる。

 従来、生態学の生物多様性研究では、野外調査に基づいた局所スケール研究、生物情報に基づいたマクロスケール研究、それぞれが個別的に行われてきた。本講演の結論として、以下の点を示唆する。生物群集の形成機構を局所スケールとマクロスケールの双方から分析することによって、生物地理学・マクロ生態学的な発見を、地域的な群集生態学の研究にフィードバックできる。これは、アジアあるいは日本の生物群集の研究や生物多様性保全の研究を、従来と異なった視点で展開できる可能性をもたらす。

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