| 要旨トップ | 受賞講演 一覧 | 日本生態学会第61回全国大会(2014年3月,広島) 講演要旨


日本生態学会奨励賞(鈴木賞)受賞記念講演 1

熱帯・亜熱帯の樹木群集における形態と生活史特性の変異

飯田佳子(ミシガン州立大学植物生物学部)

 共通する限られた資源を利用する樹木群集の形成・維持機構の解明には、各樹木種のどのような形質が資源の獲得・利用とその帰結としての生活史特性に関わるのか、そして、森林の構造や動態を規定するのかを理解する必要がある。樹木を形作る各組織・器官の形態、さらには個体全体の形態は、限られた資源の獲得及び利用・分配様式と関連し、成長や生存といった種の生活史特性を特徴づける。特に森林樹木にとって重要な光資源の獲得・利用の種間変異においてはこれまで数多くの研究がおこなわれてきた。しかし、種多様性の高い熱帯・亜熱帯林の樹木群集で導かれてきた結論・推論は、研究ごとに大きく異なっている。その理由として、樹木群集を包括的に扱わずに、特定の種群(優占種や高木種のみ)や生活史ステージ(実生や稚樹のみ)を対象としてきたことが一因として考えられる。こうした問題を解決するために,大規模森林調査区を対象に、樹木群集を形成する樹種および個体を偏りなく包括し、樹木サイズ依存性を考慮した群集レベルの階層ベイズモデルを構築して、共存樹種間の形態を基盤とした光獲得様式や力学的な制約の種間変異、そして、成長や生存といった生活史特性の種間比較を行った。その結果、共存樹種間の光獲得様式と力学的制約の種間変異を基盤とした形態形質間のトレード・オフを指摘した。これら形態形質は種の生活史特性(成長と生存)と関連し、その関係は対象とする樹木個体サイズによって変化することを明らかにした。一連の研究結果は、樹木群集の多種間比較において、種の平均値だけでなく個体サイズ依存的な変異を考慮する必要性を指摘し、資源利用ニッチ分化の実態と、形態形質の多様性の理解に貢献するものである。

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